70歳までの就業確保は努力義務だから関係ない——そう考える中小建設業ほど、熟練工の技能を失っています。義務ではないからこそ、制度を整えた会社とそうでない会社の差が、数年後にはっきり表れます。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。採用×健康経営シリーズ(blog-64〜blog-72、全8回)では新規採用の接点を扱いました。本稿は、すでに社内にいる熟練工をどう再雇用し、技能を継承するかという視点です。
この記事の要点
- 65歳までの雇用確保措置は義務、70歳までの就業確保は努力義務。ただし行政指導の対象にはなり得る
- 継続雇用制度には再雇用制度と勤務延長制度の2種類があり、目的によって使い分けが必要
- 再雇用契約に技能指導役という新しい役割を組み込むことが、技能継承と本人のモチベーションの両方に効く
制度の前提: 高年齢者雇用安定法により、事業主は65歳までの雇用確保措置が義務、70歳までの就業機会確保が努力義務とされています(出典は記事末尾)。
高年齢者雇用安定法が求める措置(厚生労働省)
出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正〜70歳までの就業機会確保〜」
努力義務だからこそ、差がつく
65歳までの雇用確保措置は、定年引き上げ・継続雇用制度導入・定年廃止のいずれかを選ぶ義務です。一方70歳までの就業確保は、この3つに加えて業務委託契約や社会貢献事業への従事を含む5つの選択肢から、実施する努力義務にとどまります。
「努力義務」という言葉は、対応してもしなくても罰則がないという意味に受け取られがちです。しかし建設業の人手不足を踏まえると、この努力義務の範囲をどう使うかが、熟練工の技能を社内に留められるかどうかの分かれ目になります。義務でないからこそ、制度化した会社とそうでない会社の差が、数年単位で開いていきます。
継続雇用制度を作る2つの選択肢
継続雇用制度には、再雇用制度と勤務延長制度の2種類があります。再雇用制度は定年でいったん退職した後に新たな条件で雇用契約を結び直す方法で、給与や役割を見直しやすいのが特徴です。勤務延長制度は定年前の労働条件のまま雇用を継続する方法で、技能や役割をそのまま維持したい場合に選ばれます。
| 制度 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 再雇用制度 | 定年でいったん退職し、新条件で契約し直す | 処遇や業務量を見直したい場合 |
| 勤務延長制度 | 定年前の労働条件のまま継続 | 技能・役割をそのまま維持したい場合 |
再雇用後の給与に法律上の一律基準はなく、労使の話し合いで決定します。ただし業務内容が定年前と変わらないのに大幅な賃下げを行うと、後にトラブルの原因になり得ます。技能・役割・労働時間の変化に応じた、説明可能な根拠を用意しておくことが実務上重要です。
ここまでの整理
継続雇用制度は「とりあえず再雇用する」ではなく、目的に応じて再雇用制度と勤務延長制度を選び分けることが出発点です。処遇を見直したいなら再雇用制度、技能をそのまま維持したいなら勤務延長制度。この選択が、後々の給与トラブルを防ぎます。
技能継承と健康管理をセットにする
再雇用契約の中に、若手への技能指導を業務の一部として明記する方法が現実的です。単なる労働力としての再雇用ではなく、指導役という新しい役割を用意することで、本人のモチベーションと会社の技能継承の両方に応えられます。これはblog-80(1on1)で扱った個別対話の設計とも接続できる考え方です。
これは私の見立てですが、高齢層の再雇用で見落とされがちなのが、健康管理を制度に組み込むことです。年に1回の定期健康診断に加えて、体力の変化に応じた作業内容の見直しを仕組み化しておかないと、無理をして働き続けた末に一気に体調を崩すケースが起こり得ます。高齢層は若年層に比べて墜落・転倒のリスクが高い傾向があるため、健診結果を踏まえた配置転換を、再雇用契約の更新タイミングに合わせて検討する運用が現実的です。
再雇用契約の更新は、多くの場合1年ごとに行われます。この更新タイミングを、単なる契約手続きで終わらせず、健診結果の確認と作業内容の見直しをセットで行う機会として位置づけると、無理な働き方を早期に発見しやすくなります。契約更新・健診・作業内容の見直しの3つを同じタイミングにそろえておくことが、運用上の負担を増やさずに健康管理を制度化する現実的な方法です。
採用難の時代に、社内の熟練工を資産として見る
blog-87(離職率の抜ける穴診断)で扱ったとおり、新規採用が難しい時代には、すでに社内にいる人材をどう活かすかが経営判断として重要になります。高齢者雇用は「仕方なく続けてもらう」ではなく、「技能という資産を計画的に引き継ぐ」という視点で設計することで、採用難の穴を内側から埋める打ち手になります。
新規採用にかかる費用や時間を考えれば、すでに現場を知り尽くした熟練工に70歳まで働き続けてもらうことは、採用コストの観点でも合理的な選択です。若手が定着するまでの数年間、熟練工が現場の要として残り続けることは、会社にとって新規採用と並ぶもう一つの人材確保策になり得ます。
もし1つだけ持ち帰るなら
今期の再雇用契約更新時に、「若手指導」を業務の一部として契約書に一文加えてください。単なる労働契約の継続ではなく、技能継承という役割を明文化するだけで、本人の位置づけと会社の資産化の両方が変わります。
よくある質問
Q. 70歳までの就業確保は義務ですか?
A. 努力義務です。65歳までの雇用確保措置(定年引き上げ・継続雇用制度導入・定年廃止のいずれか)は義務ですが、70歳までの就業確保は高年齢者雇用安定法により事業主の努力義務とされています。ただし努力義務であっても、行政指導の対象にはなり得ます。
Q. 継続雇用制度と再雇用制度は同じですか?
A. 継続雇用制度には再雇用制度と勤務延長制度の2種類があります。再雇用制度は定年でいったん退職した後に新たな条件で雇用契約を結び直す方法、勤務延長制度は定年前の労働条件のまま雇用を継続する方法です。処遇を見直したい場合は再雇用制度、技能や役割をそのまま維持したい場合は勤務延長制度が選ばれる傾向があります。
Q. 再雇用後の給与はどう決めればよいですか?
A. 法律上の一律基準はなく、労使の話し合いで決定します。ただし同一労働同一賃金の考え方から、業務内容が定年前と変わらない場合に大幅な賃下げを行うと、後にトラブルの原因になり得ます。技能・役割・労働時間の変化に応じた説明可能な根拠を用意することが実務上重要です。
Q. 高齢職人の健康管理で特に注意すべきことは何ですか?
A. 年に1回の定期健康診断に加え、体力の変化に応じた作業内容の見直しが重要です。高齢層は若年層に比べて墜落・転倒のリスクが高い傾向があるため、健診結果を踏まえた配置転換や、無理のない作業量の調整を制度として組み込むことが望まれます。
Q. 技能継承と再雇用をどう結びつければよいですか?
A. 再雇用契約の中に、若手への技能指導を業務の一部として明記する方法が現実的です。単なる労働力としての再雇用ではなく、指導役という新しい役割を用意することで、本人のモチベーションと会社の技能継承の両方に応えられます。
最後に — 北海道の中小建設業様へ
北海道の中小建設業様へ。70歳就業確保が努力義務にとどまるからこそ、制度を整えた会社が熟練工の技能を資産として残せます。継続雇用制度の選択、処遇の説明可能な根拠、技能指導役としての位置づけ、そして健康管理の仕組み化。この4つを整えるだけで、同じ再雇用でも会社に残るものが変わります。DIALOGは急性期医療23年の臨床知見と制度理解の両面から、貴社の高齢者雇用制度の設計にこの視点を落とし込むご提案をします。