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建設業 1on1・個別対話

建設業 1on1|
現場で月1回・10分の対話設計と質問テンプレ7問

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

建設業の現場で1on1が機能しないのは、「時間がない」からではありません。社長が話しすぎているからです。月間検索ボリュームを見ても「1on1」は3.3万件規模で、業種を問わず経営者・管理職が向き合っているテーマになりました。ところが「建設業 1on1」になると、現場語彙で書かれた実務記事はほとんど出てきません。本稿はその穴を埋めにいきます。

本記事は中小建設業の経営者と現場リーダー(職長・現場代理人・班長)の両方に向けた、月1回10分の1on1の実装ガイドです。現場文化の土台はblog-79で「言える文化」として整理しましたが、本稿はその土台の上に乗る個別対話の設計を扱います。安全教育の運用組み立てはblog-78、入社90日のオンボーディングはblog-51、離職原因論はblog-56、採用面接の質問設計はblog-68で扱いました。本稿は90日以降・通年で続く「辞めさせない・伸ばす」対話の話です。

株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で建設業の中年男性外傷の救急搬入直後を担当してきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営・現場文化づくり支援を提供しています。

この記事の要点

制度・法令の前提: 厚生労働省「職場における心理社会的要因への対応」「メンタルヘルス対策」「労働災害防止計画」、国土交通省「建設業を巡る現状と課題」(若手入職者の定着・離職率の長期データ)、建設業労働災害防止協会のメンタルヘルス資料、経済産業省「健康経営優良法人」評価項目(コミュニケーション促進・職場の活性化)。1on1の概念整理はEdmondson(1999)に始まる心理的安全性研究の延長線上にある運用手法。

この記事で扱うこと

なぜ建設業の現場で1on1が必要か

1on1とは、上司と部下が1対1で行う定期対話のことです。米シリコンバレー発祥のHR手法で、評価面談とは別に「業務の困りごと・関係の機微・キャリアの希望」を月次〜隔週で拾いに行く運用が広まりました。日本では2010年代後半から大企業に普及し、近年は中小企業へも降りてきています。

建設現場の語彙に翻訳すると、1on1は「辞める前に困りごとを聞く時間」「段取りの違和感を吸い上げる時間」「ベテランの暗黙知を引き出す時間」の3つを兼ねる装置です。年1回の人事面談では遅すぎ、毎日の朝礼KYでは深さが足りない、その間を埋めるのが月1回の10分です。

なぜ今、中小建設業の現場で1on1が必要か。理由は3つあります。第1に若手の離職が早期化していること。国土交通省「建設業を巡る現状と課題」によれば、建設業の若年入職者の定着率は他産業平均を下回り、入職3年以内の離職が長く課題に挙げられています。第2に心理的安全性(blog-79)は集団の文化、1on1は個別の関係であり、両輪で初めて回ること。第3に採用ブランドへの波及で、辞めた人が外で「あの会社は話を聞いてくれた」と言えるかどうかが、次の応募者の判断材料になっていることです(建災防のメンタルヘルス資料・厚生労働省のメンタルヘルス対策資料)。

現場で1on1が機能しない3つの理由

23年の臨床現場で、新人の作業療法士面談を何度も観察し、自分でも何百回と実施してきました。うまく機能しない面談には共通の構造があります。建設現場の1on1も、構造的に同じ罠を踏みます。

理由1:社長(現場リーダー)が話しすぎる

10分の1on1で社長が8分話して終わる——これが最頻出の失敗です。経営者は伝えたいことが山ほどあり、若手が黙っていると沈黙を埋めようとして話し続けます。結果、若手は「聞かれる時間」ではなく「聞かされる時間」として記憶し、次回から億劫になります。1on1は経営者の発信の場ではなく、現場の情報を経営に上げる場です。話す比率は本人7・聞き手3が目安です。

理由2:いきなり「キャリアの希望は?」と聞いてしまう

1on1の教科書を読んだ経営者がやりがちな失敗です。中小建設業の現場で20代の若手にいきなり「3年後どうなりたい?」と聞いても、答えは「特に……」で終わります。本人もまだ言語化できていないからです。聞くべきは今週・今月の具体的な困りごとから。具体の積み重ねの先に、本人の中で初めて方向感が言語化されます。順序を間違えると沈黙されます。

理由3:記録しない(または記録を評価に使う)

記録しないと、前回の話を覚えていないまま次回を迎え、本人に「先月言ったのに」と感じさせます。1on1は単発の面談ではなく、月次で積み上げる対話の連続なので、3行でも記録は必須です。逆に、記録を人事評価の根拠に使ってしまうと、本音は1回目で止まります。記録は『次回までの宿題の合意メモ』に限定し、評価記録とは物理的にファイルを分けるのが鉄則です。

この3つは同時に起こります。話しすぎてキャリアを聞いて記録を残さない——多くの初回1on1がこの三重苦で形骸化します。逆に言えば、3つを設計で潰せば1on1は動きます。

10分1on1の設計【テンプレ出し切り】

ここからは現場でそのまま使える形に落とします。印刷してA4 1枚にまとめ、社長と現場リーダーで共有してください。

質問テンプレ7問(順番のままで使える)

順番が重要です。Q1〜Q2の具体から入り、Q3〜Q4で関係と身体の話に広げ、Q5で沈黙を一度作り、Q6でようやく中期の話、Q7で次回までの宿題を相互に合意する設計です。Q5「言いそびれ」とQ7「次回までの宿題」が、特に効きます。

進行スクリプト(10分の分配)

聞き手は時計を見ません。腕時計の代わりにキッチンタイマー(100均で十分)を10分にセットし、机に置いて見える化します。延長は厳禁です。10分で終わるからこそ、毎月続きます。

記録様式(A4半分・1分で書ける)

記録様式は4項目・記入1分以内に削ります。冒頭に「本記録は人事評価には使用しません」と1行印字するのが重要です。

記録は現場リーダーが保管し、閲覧は社長と現場リーダーの2名のみ。評価面談は別途年1〜2回に設けて、ファイルを物理的に分けます。これだけで「1on1は安全な場」という現場の信用が積み上がります。

ここまでの整理

質問7問・進行10分・記録4項目の3点セットは、機能しない3つの理由に1対1で対応しています。質問7問は「キャリア話に偏る」を、進行スクリプトは「社長が話しすぎる」を、記録4項目は「記録しない/評価流用」を解きます。月1回10分・追加費用ゼロで始められる装置です。

3ヶ月続けると何が変わるか——KPIサンプル

「対話」という抽象語のままでは経営者は判断できません。3ヶ月時点で追える3指標を提案します。

3指標は心理的安全性のKPI(blog-79)、安全教育の運用(blog-78)、入社90日のオンボーディング(blog-51)とも接続します。健康経営優良法人の評価項目「コミュニケーション促進・職場の活性化」の根拠資料にも転用可能で、申請書類の重複作業を減らせます(経済産業省)。

急性期医療23年で見た、10分の重さ

これは私の見立てですが、新人が辞めるか残るかを決めるのは、月次の10分があったかどうかです。急性期病院で23年、新人の月次面談を百単位で経験しました。年1回の評価面談しかない部署では、若手は3年目までに高い率で辞めました。月1回・10分・記録は評価に使わない、と決めて回した部署では、辞める前に必ず予兆が上がってきました。「来月の夜勤がきつい」「ペアの先輩との段取りが合わない」「腰が重い」——いずれも、年1回の面談では出てこない粒度の話です。

建設現場でも構造は同じだと感じます。社長と若手の月10分は、長く見ればその会社の離職率と採用ブランドの両方を決めます。3つの設計のうち1つだけ持ち帰るなら、Q5「言いそびれ」のあとの30秒沈黙を耐えることです。

もし1つだけ持ち帰るなら

今月中に質問テンプレ7問・進行10分・記録様式4項目をA4 1枚に印刷し、社長から現場リーダーに渡すこと。冒頭に「本記録は人事評価には使用しません」と1行印字するのを忘れずに。心理的安全性の3手(blog-79)が集団の土台、1on1が個別の運用、入社90日(blog-51)が定着の入り口です。3つが揃うと辞めなくなります。

よくある質問

Q. 忙しい現場で月1回10分の時間が取れません。どう捻出しますか?

A. 月1回10分は、現場の昼休み後半・終業後の片付け時間・移動車中のいずれかに固定するのが現実解です。会議室は不要で、現場詰所のベンチ・トラックの助手席で十分です。1人月10分は年間2時間。年1回の人事面談(平均40〜60分)より短く、面談1回より得られる情報量は多くなります。時間が取れない本当の理由は『場所と形式を整えようとして重くなる』ことです。10分・立ち話・記録様式A4半分、と決めてしまえば動きます。

Q. 現場の年長者(ベテラン・親方世代)にどう声をかければよいですか?

A. 『教えてもらう側として10分ください』と入り口を変えてください。本文の質問テンプレ7問のうち、年長者向けには『最近の現場で、若手に伝えそびれている段取りはありますか』『工程上、今いちばん気になっている無理はどこですか』の2問を先頭に置きます。評価面談の延長と受け取られると沈黙されますが、技能継承の聴取として入ると年長者は話し始めます。1on1は若手のためだけのものではなく、ベテランの暗黙知を経営側に引き上げる装置でもあります。

Q. 記録は誰が見ますか? 人事評価に使われると本音が出ないのでは?

A. 記録の閲覧範囲は、現場リーダーと社長の2名までに限定し、人事評価の根拠資料としては使わない、と最初に明言してください。1on1記録は『次回までの宿題の合意』を残すための運用記録であり、評価記録ではありません。評価面談は別に年1〜2回設けて切り分けます。これを曖昧にすると、1on1は『評価のための尋問』に変質し、3回目から本音が止まります。記録様式の冒頭に『本記録は評価には使用しません』と1行印字するだけで、現場の警戒は大きく下がります。

Q. blog-68の採用面接の質問5つと、1on1の質問テンプレ7問は何が違いますか?

A. 別の場面の質問設計です。blog-68は採用面接で『この人を採るかどうか』を判断するための5問でした。本記事の7問は入社後の人を『辞めさせず・伸ばすため』に毎月聞く質問です。採用面接は一度きりの選別、1on1は通年の継続対話。前者は判断、後者は関係構築が目的です。順番としては、blog-68で良い採用を行い、blog-51の入社90日オンボーディングで定着の土台を作り、本記事の1on1で90日以降の通年運用に繋げる、が一連の流れです。

Q. 1on1を拒否されたら、どうすればよいですか?

A. 拒否される最大の理由は『何の時間か分からない・何を話せばいいか分からない』ことです。初回の案内時に、目的(辞めさせないため・困りごとを早く拾うため)、時間(10分)、頻度(月1回)、記録の扱い(評価には使わない)、話題の例(本文の7問を渡す)の5点をA4 1枚で示してください。それでも拒否される場合は無理に1on1の形式に拘らず、本人が話しやすい場面(移動車中・休憩時の立ち話)で7問のうち1問だけを聞く、から始めます。形式より、聞く側の作法が継続できているかが本質です。

最後に — 北海道の中小建設業様へ

1on1は精神論ではなく、質問7問・進行10分・記録4項目の設計です。本記事のテンプレ一式はA4 1枚にまとめて社長から現場リーダーに渡すだけで明日から動きます。心理的安全性の3手(blog-79)で集団の土台を作り、入社90日のオンボーディング(blog-51)で定着の入り口を整え、本記事の1on1で90日以降の通年運用に繋ぐ——この3つが揃うと、若手が辞めなくなります。離職原因論はblog-56、人事評価との切り分けはblog-74も併せてご覧ください。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で建設業の中年男性外傷(墜落・転倒・挟まれ)の救急搬入直後を数多く担当してきました。その間、新人の月次面談を百単位で実施・観察し、面談の有無で離職率がどう変わるかを医療チームの現場で見てきた経験をもとに、現在は北海道の中小建設業向けに健康経営・現場文化づくりの支援に取り組んでいます。

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1on1の運用を、心理的安全性・健康経営優良法人申請まで一本で接続します

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DIALOGは、北海道の中小建設業を対象に、月1回10分の1on1運用、質問7問・進行10分・記録4項目の社内標準化、心理的安全性のKPI接続、健康経営優良法人認定の根拠資料まで一本で設計します。急性期医療23年の臨床知見をもとに、貴社の現場規模に合わせた対話設計の伴走をご提案します。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床経験と、厚生労働省・国土交通省・建設業労働災害防止協会・経済産業省が公開する一次資料を踏まえた解説です。引用した法令・制度・評価項目・統計は本記事公表時点の内容であり、政省令・通達・告示・認定基準の改定により変更され得ます。実際の運用設計・労務管理・健康経営優良法人申請にあたっては、所轄労働基準監督署・産業保健総合支援センター・産業医・社会保険労務士の助言を必ず併用してください。本記事は離職率低下や採用力向上を保証するものではなく、現場の対話設計の参考としてご活用ください。