急性期病棟で23年、初対面の患者さんに必ず聞いてきた質問が1つあります。「今、一番気がかりなことは何ですか」。たったこの一文で、相手の身体の力みが抜ける瞬間が、何百回もありました。面接の最初の3分にも、そのまま使える問いです。
採用×健康経営シリーズの4回目になります。前回(blog-67)で人手不足倒産の上流3層を整理したのを受け、今回は求人票で応募が来た後の「面接30分」に踏み込みます。
面接で多くの社長が陥るのは、「うちは健康経営優良法人を取得していて——」と冒頭から会社説明を始めてしまうことです。応募者は背筋を伸ばして聞く構えになり、本当の不安は最後まで出てきません。
この記事の要点
- 面接で健康経営を一方的に説明すると、応募者は構えて辞退に傾く
- 応募者の不安を引き出す質問5つを先に置くと、自社の取り組みが「答え」として腹落ちする
- 面接後はA4一枚の振り返り表で、次の応募者の面接設計に直結させる
制度・統計の前提: 厚生労働省「公正な採用選考の基本」では、本人の適性・能力と関係ない事項を選考対象にしないことが定められています。建設業の正社員人手不足感は2026年1月時点で6割超(出典:帝国データバンク)。内定承諾率は応募者との対話設計で変動します(出典は記事末尾)。
この記事で考えたいこと
- なぜ面接で健康経営を冒頭から語ってはいけないのか
- 応募者の不安を引き出す質問5つは、何をどの順番で聞くか
- 急性期病棟で23年使ってきた「最初の一問」を、面接にどう転用するか
- 面接後にA4一枚で残す振り返り表の4列
面接で健康経営を冒頭から語ると、応募者は構える
結論から書きます。健康経営の話は、面接の冒頭ではなく、応募者の不安を3つ聞いた後に、1分以内で短く返すのが現実的です。
理由は単純です。応募者は初対面の社長を前に、すでに緊張しています。そこに「弊社は健康経営優良法人を取得し——」と制度の話から入ると、評価される側の構えがさらに強まります。本当の不安は喉の奥に沈み、面接が終わるまで出てきません。
言い換えると、面接の最初の10分は「会社を説明する時間」ではなく「応募者の言葉を引き出す時間」です。健康経営の取り組みは、応募者が口にした不安に対する「答え」として後段で出すと、初めて意味を持ちます。
応募者の不安を引き出す質問5つ
厚生労働省「公正な採用選考の基本」では、本籍・家族・住宅状況・思想信条など、本人の適性・能力と関係ない事項を選考対象にしないことが定められています(出典:厚生労働省)。以下の5問は、その範囲内で、応募者の不安を引き出すための質問例です。
質問1(最初の3分):「今日、ここに来るまでで、一番気がかりだったことは何ですか」。急性期病棟で23年使ってきた問いの変形です。職務質問ではなく、応募者の身体の力みを抜くための一問。沈黙が10秒続いても、待ちます。
質問2:「前の現場(または前職)で、身体的に一番つらかった瞬間はいつでしたか」。腰・膝・睡眠のどこに不安があるかが、ここで自然に出ます。健康経営の取り組みを後で返す素材になります。
質問3:「家族や周囲の方は、この仕事についてどう言っていますか」。家族構成は聞きません。周囲の反応を聞くことで、応募者本人がキャリア選択に納得しているかが見えます。
質問4:「3年後、どんな働き方ができていたら『この会社を選んでよかった』と思えそうですか」。キャリアの不安と期待が、応募者自身の言葉で出ます。
質問5(最後の5分):「今日の面接で、まだ聞けていない不安があれば教えてください」。逆質問の前に置きます。逆質問は「会社への質問」ですが、この問いは「自分の不安の言語化」を促します。
この5問を順に置くだけで、面接の前半20分は応募者の言葉で満ちます。健康経営の取り組みは、質問2・3・4で出てきた不安に対して、後半10分で短く返します。
急性期病棟の問いを面接に転用する理由
これは私の見立てですが、面接と臨床の初回面談は、構造が驚くほど似ています。23年間、急性期医療の現場で、初対面の患者さんに必ず最初の一問を投げてきました。「今、一番気がかりなことは何ですか」。
リハビリ室で、術後3日目の患者さんが「退院した後、また仕事に戻れるかが一番怖い」と小さな声で言った朝のことを、今も覚えています。医学的な疼痛の話ではなく、生活の不安が最初に出る。その不安に応えると、その後のリハビリの納得感がまるで違いました。
面接も同じです。応募者の本当の不安は、職務経歴の話より先に出てきます。社長が会社説明から始めると、その不安は出る場所を失います。だからこそ、最初の問いを「気がかり」に置き換える。たったそれだけで、面接の温度が変わります。
面接後の振り返り表(A4一枚)
- 列1: 応募者が語った不安3項目(質問2〜5で出た言葉をそのまま)
- 列2: 自社が返した取り組み(健診・残業管理・装備など、具体名で)
- 列3: 応募者の反応(表情・うなずき・追加質問の有無)
- 列4: 次回への申し送り(次の応募者にも同じ不安が出るなら求人票に追記)
※ この4列を面接直後に5分で埋めるだけで、次の応募者の面接設計と、求人票(前回 blog-65 で扱った5箇所)の改善が同時に進みます。
「もし1つだけ持ち帰るなら」
もし1つだけ持ち帰るなら、これです。来週の面接の最初の3分、会社説明を一旦封印して「今日、ここに来るまでで、一番気がかりだったことは何ですか」と聞いてみてください。その一問で、面接の30分全体の質が変わります。健康経営の取り組みを語る順番は、そのあとで十分間に合います。
本シリーズは続きます。次回(第5回)は「内定から入社までの90日設計」を予定しています。面接で腹落ちした応募者を、入社初日まで気持ちを保たせる具体策を整理します。
よくある質問
Q. 面接で健康経営の話は、いつ・どれくらい伝えればよいですか?
A. 冒頭で語らず、応募者の不安を3つ聞いてから10分以内・1分以内に絞って伝えるのが目安です。健康経営優良法人の取得有無を最初に説明すると、応募者は構えてしまいます。先に身体・家族・キャリアの不安を引き出してから、それぞれに対応する自社の取り組みを短く返す形が腹落ちしやすいです。
Q. 建設業の面接で必ず聞くべき質問はありますか?
A. 厚生労働省の公正な採用選考の基本に反しない範囲で、本人の希望・働き方・体調管理の質問を中心に組み立てます。本記事では、応募者の不安を引き出す質問5つを例示しています。家族構成や思想信条など本人の適性・能力と関係ない事項は質問できません。
Q. 応募者に聞いてはいけない質問はどこに書いてありますか?
A. 厚生労働省「公正な採用選考の基本」に、本籍・出生地、家族、住宅状況、生活環境・家庭環境、宗教、支持政党、思想、人生観・生活信条、尊敬する人物、購読新聞・雑誌・愛読書などを採用選考の対象としないことが明記されています。面接設計の前に必ず確認してください。
Q. 面接後の振り返りは何を記録すればよいですか?
A. 本記事の振り返り表では、応募者が語った不安3項目・自社が返した取り組み・応募者の反応・次回への申し送りの4列を勧めています。内定承諾後の入社準備や、辞退された場合の次の応募者への面接改善に直結する素材になります。
Q. 面接で内定承諾率を上げるには何が一番効きますか?
A. 一方的な会社説明より、応募者の不安を先に引き出す質問設計と、それに沿った会社側の返答が効きます。レバテックやAchieveHRの公開情報でも、選考プロセスでの応募者との対話・期待値調整が承諾率に直結すると整理されています。健康経営の取り組みは、その対話の素材として後段で短く出すのが現実的です。
最後に — 中小建設業の社長へ
面接30分は、会社を売り込む時間ではなく、応募者の不安と自社の取り組みを噛み合わせる時間です。最初の一問を「気がかり」に変えるだけで、健康経営の話が「説明」から「答え」に変わります。
DIALOGには、作業療法士23年の急性期臨床で培った「初対面の人の不安を引き出す問いの設計」と、健康経営優良法人制度の理解があります。来週の面接で使える質問5つと振り返り表を、貴社の業種・規模に合わせて一緒に組み立てます。それが私たちの提供価値です。
本シリーズは続きます。第5回「内定から入社までの90日設計」も、ぜひ並走していただけたらと思います。