← ブログ一覧に戻る
メンタルヘルス・離職対策

建設業のメンタルヘルス離職
心の不調が現場の人手不足を加速させる

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

「最近、若い職人が理由を言わずに辞めるケースが増えた」——北海道の建設会社の社長から、こうした相談をうかがう機会が増えています。

表向きは「一身上の都合」でも、現場では疲弊している、眠れていない、食欲がない——そうした心身の不調が背景にあることが多いのではないか。23年の医療現場で患者さんを診てきた経験から、そう感じています。

この記事の要点

統計の出典: 厚生労働省「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」より。

株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で患者さんの「心身が崩れるプロセス」を見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。メンタルヘルス不調による離職という、経営者にとって最も大きなペイン(Lv5:人を失う)に対して、医療現場で実証されている早期発見・介入の思想を、現場の条件に合わせて応用するのが、私たちの提供価値です。

建設業の離職理由の本当のところ

厚生労働省の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した労働者がいた事業所の割合は全体の13.5%で、そのうち実際に退職に至ったケースは6.4%となっています(出典:厚生労働省 令和5年調査結果)。

「たった6.4%?」と思われるかもしれません。けれど逆に言えば、平均的な企業規模(50人規模)なら、数年以内に1人は「メンタルが理由で辞めた職人」がいてもおかしくない割合です。そして実感では、建設業の現場はこの統計平均より高い可能性があります。

理由は、建設業の労働環境にあります。24時間の重労働、季節による仕事量の変動、天候に左右される現場のプレッシャー、下請け構造による契約不安定性——こうしたダブルストレスが、他産業より濃密にかかるのが建設現場です。

「給料が安いから辞める」ではなく「心が疲れて辞める」

23年の医療現場で何度も見たパターンがあります。働き盛りの患者さんが脳卒中や心筋梗塞で運ばれてくる。話を聞くと「疲れていたけど、仕事が忙しくて言えなかった」「眠れていなかったが、我慢していた」——そうした初期症状の見過ごしが、突然の発症につながっていました。

建設業の若い職人も同じです。最初は「最近、体が疲れやすい」「朝、起きられない」といった小さな不調です。けれどそれを誰にも言わず、無理をしているうちに、ある日突然「辞めます」と告げられる。経営者には「給料が安いから?」「人間関係?」と原因が不明確に見えるのです。

医療現場で見た「心身の不調が進むステージ」

  1. ステージ1(初期)——疲れやすい、眠れない、食欲がない(本人も気付いている)
  2. ステージ2(進行)——仕事のミスが増える、判断が鈍る、イライラが増す(本人は「自分が悪いのか」と自責)
  3. ステージ3(深刻)——休みの日も外出しない、人に会いたくない、希望が見えない(本人は相談できない状態)
  4. ステージ4(決断)——「辞めよう」という決断が下される(経営者には突然に見える)

多くの離職は、ステージ1の初期段階で気づき、対応していれば防げる可能性があります。

建設業の現場でできる「毎日の小さな質問」

建設業労働災害防止協会(建災防)が推奨している「建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック」は、この初期段階の発見に最適な仕組みです。

具体的には、職長が作業員に毎朝、朝礼時に3つだけ聞きます。

たったこれだけです。医学的には、『睡眠』『食欲』『体調変化』の3項目は、メンタルヘルス不調の最も初期の信号です。毎朝、繰り返し聞くことで、「あ、最近◯◯さんが『眠れていない』ばかり答えているな」という気づきが生まれます。

その時点で、職長が「何か困っていることはないか」と声をかけることができれば、相談しにくい本人が「実は…」と話しやすくなるのです。これは医療現場で患者さんとの関係づくりに何度も成功した方法と同じです。

なぜ建設業の職人は心の不調を口にしないのか

ここが最も重要なポイントです。建設業、特にベテラン職人ほど、メンタルヘルス不調を自分から伝えない傾向があります。

理由は文化です。「我慢するのが当たり前」「迷惑をかけてはいけない」「親方に弱いところを見せてはいけない」——こうした業界の価値観が、本人の口を重くさせます。医療現場で80歳の元大工さんが「手が思うように動かないのが一番悔しい」と言ったことが、今も耳に残っています。その人たちにとって「できない」「困っている」という言葉は、生きざまの否定に感じるのです。

だからこそ、相手から「困っていますか?」と聞かれるまで、決して言わない。その間に、心身の不調が深刻化し、ある日「辞める」という決断に至るのです。

毎朝の3つの質問は、この「言いにくい文化」を経営者・職長が理解した上で、「お前の体調が大事なんだ」というメッセージを毎日送る仕組みです。

小規模企業ほど、メンタルヘルス対策が機能しやすい理由

大規模企業は健康診断やストレスチェックの仕組みが充実しています。けれど実行は複雑で、結果から具体的な支援につながりにくいという課題があります。

北海道の中小建設業は、これと逆です。経営者と現場の距離が近い。職長が実名で作業員の顔と名前を知っている。朝礼で毎日一緒にいる。こうした条件は、大企業にはない「早期発見と信頼」のための最高のプラットフォームになります。

むしろ小規模企業こそが、メンタルヘルス対策を「制度」ではなく「日々の現場文化」として機能させやすいのです。

建設業のメンタルヘルス対策が「続かない」理由

医療現場で何度も見た失敗パターンがあります。「制度を作ることが目的になってしまう」というケースです。

例えば、経営者が「ストレスチェックをやろう」と導入する。全員でチェックを実施する。結果をもらう。けれどそこで終わってしまう。誰が、何をするのかが決まっていないのです。

建設現場で毎朝の3つの質問を「続ける」ためには、以下が必須です。

これが決まってから制度を作ると、続く仕組みになるのです。

よくある質問

Q. メンタルヘルス不調は建設業でそんなに多いのですか?

A. 厚生労働省の令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調により1ヶ月以上休業・退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%で、そのうち実際に退職に至ったケースは6.4%に上ります。建設業は、重労働と季節変動のダブルストレスがある業界のため、統計より実感値はさらに高い可能性があります。

Q. 建設業の現場でメンタルヘルス対策はどう進めるのですか?

A. 建設業労働災害防止協会(建災防)は「建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック」を推奨しています。健康KY活動では、職長が作業員に毎日『睡眠』『食欲』『体調』の3項目を聞き、無記名ストレスチェックは安全朝礼で実施します。小さな現場でも導入でき、特別な予算がなくても始められるのが特徴です。

Q. ベテラン職人ほどメンタル不調を口にしない理由は何ですか?

A. 23年の医療現場で見た限り、年配の患者さんほど『我慢するのが当たり前』という世代の価値観が強く、『迷惑をかけてはいけない』という思いが、身体や心の不調を言葉にさせないようにしています。建設業でも同様で、現場の親方・ベテランほど、不調の初期段階で気づかれないリスクが高まります。

Q. 小規模な建設会社でもメンタルヘルス対策はできますか?

A. 小規模企業ほど、経営者と現場の距離が近いという利点があります。職長や班長に『毎朝3つの質問』の習慣化をお願いすることで、大規模企業よりも早期に不調に気づける環境を作ることが可能です。費用をかけず『仕組み』で対応するアプローチが、北海道の中小建設業に合っていると感じています。

Q. メンタルヘルス対策で『続かない』理由は何ですか?

A. 医療現場で何度も見た失敗パターンは『制度を作ることが目的になってしまう』ことです。ストレスチェック結果を取って終わり、というのは続きません。『誰が、どこで、毎日実行するか』を決めてから制度を作ること、そして3ヶ月ごとに『本当に機能しているか』を振り返ることが続く工夫になります。

最後に — 建設業の社長へ

メンタルヘルス不調による離職を防ぐことは、「良い会社だから」という理由ではなく、「経営の根幹」です。せっかく採用した人を、心が疲れて辞めさせることは、直接的な採用コストの損失です。同時に、現場の知識や技術が失われることで、残された職人たちの負担も増える。その負担が新たな不調を生み出す悪循環が始まります。

毎朝の3つの質問は、その悪循環を止める最小単位の工夫です。費用をかけず、シンプルで、医学的に根拠があり、現場で実行できる。

もし1つだけ持ち帰るなら、明日の朝礼で、職長に「昨晩、眠れましたか?」と部下に聞かせてみてください。その小さな質問の繰り返しが、人を失う前の気づきになります。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、医療・介護の現場で人の生活と仕事を見てきた経験をもとに、北海道の健康経営・介護予防・ウェルネス支援に取り組んでいます。

詳しいプロフィールを見る

メンタルヘルス不調による離職を、現場レベルで防ぎたい

現場の仕組みづくりから
はじめてみませんか

DIALOGでは、北海道の中小建設業を対象に、メンタルヘルス不調による離職防止から職場復帰支援までを一体で支援しています。医療現場で23年見てきた「心身の不調が進むプロセス」を現場に応用し、毎朝の小さな気づきが離職を防ぐ仕組みを構築します。「うちの現場でも導入できるか」というご相談から承ります。

ぱとす事業の詳細を見る →

参考データ・出典

本記事は、著者(作業療法士歴23年)の臨床経験と、厚生労働省・建設業労働災害防止協会の公開情報を踏まえた解説です。メンタルヘルス不調による休業・離職の統計は年度ごとに更新されるため、最新の統計数字は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。本記事は医学的治療や診断ではなく、予防的な組織文化づくりの提案です。個別の精神疾患診断・治療が必要な場合は、医師・産業医・産業カウンセラー等の専門家に相談してください。