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定着×自己効力感

自己効力感|
教育コストをかけた新人が、なぜ「自分には無理」で辞めていくのか

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

丁寧に教えるほど、新人は育つはずです。ところが実際には、手取り足取り教えたはずの新人が「自分には向いていない」と辞めていくことがあります。教育に投じた時間と給与というコストが、そのまま失われる瞬間です。この逆説の背景には、自己効力感という心理学の概念があります。

株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場でリハビリテーションの中核概念である自己効力感を扱ってきた知見をもとに、中小企業の健康経営・人材定着支援を提供しています。blog-101(人事評価)では評価の納得感を扱いました。本稿は評価の手前にある、本人の自信そのものに焦点を当てます。

この記事の要点

背景の前提: 自己効力感は心理学者アルバート・バンデューラが1977年に提唱した概念で、成功体験・代理体験・言語的説得・生理的情緒的喚起という4つの要素で育つとされています(出典は記事末尾)。

早期離職の理由と、自己効力感を育てる4要素

52.3%
3か月未満離職者のうち「人間関係」を理由に挙げた割合
4要素
自己効力感を育てる要素(成功体験等)
1977
自己効力感理論が提唱された年

出典:厚生労働省「令和7年版労働経済白書」

手厚い指導が、逆に自信を奪う理由

厚生労働省の令和7年版労働経済白書によると、3か月未満で離職する人の理由で最も多いのは人間関係で、52.3%に上ります。次いで「仕事が自分に合わない」という理由も大きな割合を占めます。この2つは無関係ではありません。失敗を先回りして防ぐ指導が続くと、本人は「自分でやり遂げた」という成功体験を積む機会を失います。指摘ばかりされる関係性は、人間関係の悪化としても、自己効力感の低下としても表れます。

自己効力感は、バンデューラが提唱した「自分ならこれを達成できる」という自信や見通しを指す概念です。行動を始めるかどうか、困難に直面したときに続けられるかどうかに大きく影響します。丁寧に教えることと、本人の自信を育てることは、必ずしも同じ方向を向いていません。

自己効力感を育てる3つの実務

バンデューラが示した4つの要素のうち、現場で扱いやすいものから着手できます。

実務内容対応する要素
課題を小さく区切るいきなり全体を任せず、達成しやすい単位に分割する成功体験
できたことを具体的に言葉にする「上手くいった」で終わらせず、何がどう良かったかを伝える言語的説得
近い先輩の成長を見せる少し先を行く先輩の様子を共有する代理体験

ここまでの整理

3つの実務に共通するのは、「教える」から「本人に経験させる」へ重心を移すことです。手取り足取り教えることが親切だという前提を、一度疑ってみる価値があります。

「できた」という実感は、本人にしか作れない

これは私の見立てですが、急性期病院のリハビリでも、セラピストがすべてを介助してしまうと、患者さんの「自分でできた」という実感は育ちません。少し難しいが達成可能な課題を設定し、本人にやり遂げてもらうことが回復への近道でした。新人教育も同じ構造だと感じています。教える側の親切心が、かえって本人の自信を育てる機会を奪っていないか、見直す価値があります。

もし1つだけ持ち帰るなら

次に新人に仕事を任せるとき、「全部やって見せる」前に、少し小さい単位を1つだけ本人に任せてください。特別な準備は要りません。この1つの成功体験が、教育投資を無駄にしない最初の一歩になります。

よくある質問

Q. 自己効力感とは何ですか?

A. 心理学者アルバート・バンデューラが1977年に提唱した概念で、「自分ならこれを達成できる」という自信や見通しを指します。行動を始めるか、困難に直面したときに続けられるかに大きく影響するとされています。

Q. なぜ丁寧に教えているのに新人が自信を失うのですか?

A. 手厚く教えすぎると、本人が「自分でやり遂げた」という成功体験を積む機会が減ります。自己効力感は成功体験の積み重ねで育つため、先回りして失敗を防ぐ指導が、かえって自信を育てにくくすることがあります。

Q. 自己効力感はどうすれば高められますか?

A. バンデューラは、成功体験・代理体験(他者の成功を見ること)・言語的説得(励まし)・生理的情緒的喚起(体調や気分の安定)の4つの要素を挙げています。特に成功体験は、小さく達成しやすい課題を設計することで積み重ねられます。

Q. 早期離職の理由として、人間関係と自己効力感はどう関係しますか?

A. 厚生労働省の労働経済白書では、3か月未満で離職する人の理由の半数以上が人間関係とされています。人間関係の悪化は、失敗を指摘されるだけで認められる機会が少ない環境から生まれやすく、自己効力感の低下と表裏の関係にあります。

Q. 小規模な会社でも実践できますか?

A. はい。特別な研修は不要です。任せる作業を少し小さく区切る、できたことを具体的に言葉で伝えるなど、日々の指導の中で調整できることから始められます。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

人材課題を抱える中小企業の経営者様へ。「教える」から「本人に経験させる」へ重心を移し、課題を小さく区切る・できたことを言葉にする・先輩の成長を見せるという3つから着手することが、教育投資を無駄にしない近道です。DIALOGは急性期医療23年の自己効力感支援の知見をもとに、貴社の健康経営・人材定着の取り組みにこの視点を落とし込むご提案をします。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は健康経営・介護予防・ウェルネスの支援に取り組んでいます。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、厚生労働省が公開する一次資料、および心理学分野の一般的な知見(バンデューラの自己効力感理論)を踏まえた解説です。