安全大会で「気をつけよう」と何度言っても、転倒は減りません。減るのは、現場の3秒の動作が変わったときです。気持ちではなく、身体の側を変える講話に切り替えてみませんか。
6月は全国安全週間の準備期間です(厚生労働省)。協力会社や職人を集める安全大会で、社長や安全管理者が話す講話の中身に頭を悩ませている時期だと思います。本記事は、その講話原稿としてそのまま使える内容を狙って書きました。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が安全に働き続けられる条件」を見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。今回お渡しするのは、職人さんが朝礼後30秒〜2分でできる3つの動作です。前提知識はゼロで構いません。
この記事の要点(15秒で読めます)
- 足首ぐるぐる10秒——固まった足首をほぐし、つまずきに気づく
- 片足立ち5秒——ふらつきの自覚を促し、バランスの左右差を知る
- 股関節ひらき15秒——歩幅を取り戻し、足場上の踏み外しを減らす
前提: 建設業の労働災害で「墜落・転落」「転倒」は事故の型として上位を占め続けています(厚生労働省「労働災害発生状況」)。厚生労働省は「STOP!転倒災害プロジェクト」を通年で展開し、毎年2月と6月を重点取組期間に位置付けています。
この記事で考えたいこと
- なぜ「気をつけよう」では転倒は減らないのか
- 動作1:足首ぐるぐる10秒(つまずき予防)
- 動作2:片足立ち5秒(バランス予防)
- 動作3:股関節ひらき15秒(踏み外し予防)
なぜ「気をつけよう」では転倒は減らないのか
気持ちの引き締めは、現場では3歩で消えるからです。職人さんが朝礼で「よし」と思っても、足場に上がって資材を担いだ瞬間、身体は普段の動きに戻ります。
急性期病院で23年、転倒や墜落で運ばれてきた建設業の働き盛りの方を、私は数多く担当してきました。骨折で手術を受け、リハビリの初日に共通しておっしゃるのは「ちょっと足が引っかかっただけだった」という一言です。特別な不注意ではありません。いつも通りの作業の中で、足首や股関節が固まっていて、わずかな段差を越えられなかった結果です。
言い換えると、転倒・転落の上流には、身体の固さと、自分の身体の状態への気づきの薄さがあります。ここに30秒だけ手を入れる。それが今回の3つの動作の狙いです。
章末1行サマリ:気をつけるよりも、身体に気づくほうが効きます。
動作1:足首ぐるぐる10秒(つまずき予防)
片足ずつ、足首を大きく10回まわします。左右で合計10秒ほどです。
なぜ効くか。足首は、足場の段差や資材を踏んだときに、最初に身体を立て直す関節です。固まった足首は、わずかな傾きに反応できません。とくに冬場、朝一番の身体は、足首と腓骨筋(言い換えると、すねの外側の細い筋肉)が冷えて固まりがちです。ここを動かしておくと、つまずいたときに足首がとっさに踏ん張ってくれます。
どうやるか。立ったまま、片足のつま先を床から少し浮かせ、つま先で大きな円を描くように、ゆっくり5回まわします。逆まわしに5回。反対の足も同じ。靴を履いたままで構いません。詰所の中でも、ヘルメットを置いた直後の朝礼前でも、その場で完結します。
章末1行サマリ:足首は、つまずきの最後の砦です。10秒で起こしておきます。
動作2:片足立ち5秒(バランス予防)
近くの壁や鉄パイプに片手を添えて、片足で5秒立ちます。左右で合計10秒です。
なぜ効くか。建設現場の転倒は、両足で立っているときよりも、片足に体重が乗った一瞬に起きます。階段、足場、はしご、資材をまたぐ瞬間。片足立ちは、その一瞬を疑似的に体験する動作です。たった5秒で、自分のふらつきと、左右のバランスの差に気づけます。
どうやるか。必ず手を添えること。完全に手を離すことが目的ではありません。「右で立つとふらつく」「左は意外と安定する」という自覚を本人に渡すことが目的です。ふらついた側が、現場で踏み外しやすい側だと、私の臨床経験では考えています。痛みが出る場合はその場で中止してください。
厚生労働省の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」でも、加齢に伴う身体機能の変化を、本人と事業者の双方が把握することが推奨されています。片足立ちは、その把握を5秒で行う、最も簡単な道具です。
章末1行サマリ:ふらつきは弱さではなく、情報です。5秒で取りに行きます。
動作3:股関節ひらき15秒(踏み外し予防)
足を肩幅より広く開き、片膝を曲げて股関節を内側からじんわり伸ばします。左右で合計15秒です。
なぜ効くか。股関節が固いと、歩幅が狭くなります。歩幅が狭くなると、足場の踏みしろが小さくなり、わずかな端で踏み外します。資材をまたぐ動作も、股関節の開きが足りないと、上半身がついていけずに重心が崩れます。とくに50代以降の職人さんで、年々歩幅が狭くなっている方は要注意です。
どうやるか。立ったまま、足を大きく横に開きます。右膝を軽く曲げ、右の股関節の内側がじんわり伸びるところで7〜8秒キープ。反対側も同じ。反動はつけません。痛気持ちいい手前で止めるのが目安です。
章末1行サマリ:歩幅は、足場の踏みしろです。15秒で広げ直しておきます。
安全大会の講話で読み上げる3つの動作(合計30秒〜2分)
- 足首ぐるぐる10秒——片足ずつ、つま先で大きな円を5回ずつ。つまずいたときに足首がとっさに踏ん張れる状態にしておく
- 片足立ち5秒——壁や鉄パイプに片手を添えて、左右5秒ずつ。ふらつく側を本人に自覚してもらう
- 股関節ひらき15秒——足を広く開き、片膝を曲げて内ももをじんわり伸ばす。歩幅を取り戻し、踏み外しを減らす
※あくまで一例です。痛みのある方、持病のある方は無理に揃えず、本人の判断を優先してください。
もし1つだけ持ち帰るなら: 講話の終わりで「3つ全部やってください」と言わないでください。「明日の朝礼から、1つだけ続けてください」と言ってください。続いた1つが、半年後に現場の動作を変えます。
よくある質問(安全大会担当者向け)
Q. 朝礼で時間が取れません。何分あれば十分ですか?
A. 3つ合わせて1分でも構いません。足首ぐるぐる10秒・片足立ち5秒・股関節ひらき15秒で、合計30秒です。職人さんは「短い・覚えやすい・道具不要」でないと続けません。短く始めて、続けることを優先してください。
Q. 高齢の職人ができない動作があるときはどうしますか?
A. 片足立ちは、必ず近くの壁や鉄パイプに片手を添えてもらいます。完全に手を離すことが目的ではありません。ふらつきの自覚を促すことが目的です。痛みが出る動作はその場で中止し、無理に揃えないでください。
Q. 冬の北海道では寒くて、外で動けません。
A. 屋内の詰所や朝礼前のプレハブの中で行うことを想定して設計しています。3つとも立ったまま、その場で完結します。むしろ冬場は筋肉が冷えて固まりやすく、転倒・転落のリスクが上がる時期と感じています。
Q. 効果はどれくらいで出ますか?
A. 個人差が大きく、特定の期間で必ず転倒が減ると断定はできません。期待されるのは、自分の身体の固さや左右差に気づく機会が増えることです。気づきが、現場の3秒の動作を変える出発点になります。
Q. 安全大会の講話で使うとき、どんな順番で話せばいいですか?
A. 「今日は3つだけお伝えします」と区切ることをおすすめします。冒頭で『STOP!転倒災害プロジェクト』に触れ、3つの動作をその場で一緒にやってもらい、最後に「明日の朝礼から、1つでいいので続けてください」で締めると、10〜15分で収まります。
最後に — 中小建設業の社長へ
安全大会の講話で最も大切なのは、立派な言葉ではありません。職人さんが翌朝、いつもと違う動作を1つ持ち帰ることです。30秒のカラダケアは、その1つになり得ます。
DIALOGは、作業療法士23年の臨床経験で培った「身体の固さと事故の関係を見抜く目」を持っています。そこに労働安全と健康経営の制度理解を重ね、安全大会の講話原稿づくりから、朝礼への組み込み、半年後の振り返りまでを一貫して伴走します。本記事の3つの動作は、その入口の素材として自由に使ってください。
まずは、今年の安全大会の講話原稿を1枚、私たちと一緒に作るところから始めませんか。