「うちは塗るだけ、貼るだけ。化学物質なんて製造していない」。その認識が、今いちばん危ないかもしれません。
2024年4月から、化学物質の新しい管理ルールが全面的に始まりました(厚生労働省)。塗料・接着剤・防水材・洗浄剤を使う建設業も、その多くが対象に入ります。「製造業の話」と思って手をつけていない会社ほど、知らないうちに義務を外しているおそれがあります。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が安全に働き続けられる条件」を見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。制度の要件と、現場で実際に効く健康管理の両面から、化学物質への対応を実務に乗せていくのが私たちの役割です。
本記事では、塗装・防水・内装などの中小建設業が今から動きたい3つの実務を整理します。厚生労働省の資料と、臨床現場で見てきた現実の両面から読み解きます。読み終えたあとに、「来週、まずこの1枚を集めよう」と判断できる材料をお渡しすることが目標です。
この記事の要点
- 2024年4月から化学物質の自律的な管理が全面施行。製造業以外の建設業も対象になる
- 塗料・接着剤・防水材を扱うなら、化学物質管理者の選任や保護具の着用義務が関わる
- まずSDS(安全データシート)を集めて、自社が対象かを確かめるのが出発点
制度の前提: 新たな化学物質規制(自律的管理)は労働安全衛生規則等の改正により2024年4月1日に全面施行されました。リスクアセスメント対象物を扱う事業場には、化学物質管理者の選任などが求められます(厚生労働省・出典は記事末尾)。
この記事で考えたいこと
- なぜ「製造していない」建設業まで対象になるのか
- 実務1:自社が対象かをSDSで確かめる
- 実務2:化学物質管理者を1人決める
- 実務3:皮膚を守る保護具を整える
なぜ「製造していない」建設業まで対象になるのか
規制の対象が「製造」だけでなく「取り扱い」まで広がっているからです。塗る、貼る、塗膜をはがす——これらはすべて化学物質の取り扱いにあたります。
2024年4月に全面施行された新しい仕組みは、「自律的な管理」へと舵を切りました(厚生労働省)。国が一律に決めるやり方から、事業者が自社の使う化学物質のリスクを自分で評価し、対策する方式への転換です。リスクアセスメント対象物(リスクの評価が義務づけられた化学物質)を扱う事業場には、化学物質管理者の選任などが求められます。
対象となる化学物質は、年々その数が増え続けています。今は対象外の製品でも、来年には対象に入ることがあります。言い換えると、一度確認して終わりではなく、定期的に見直す前提の制度です。
急性期病院で、薬品による事故やガスを吸い込んで運ばれてきた方を、私は担当したことがあります。印象に残っているのは、「これくらいなら大丈夫」と長く使い続けていた、というお話でした。
実務1:自社が対象かをSDSで確かめる
最初の一歩は、現場で使っている製品の正体を知ることです。塗料・接着剤・防水材・洗浄剤の一つひとつに、何が入っているかを確かめます。
その手がかりがSDS(安全データシート)です。SDSとは、言い換えると、その製品の成分と危険性を書いた説明書のことです。メーカーや販売店に求めれば入手できます。
SDSを見れば、その製品がリスクアセスメント対象物を含むかどうかが分かります。まずは倉庫にある製品のSDSを集めて、一覧にするところから始められます。これは特別な専門知識がなくても、今週から動ける作業です。
実務2:化学物質管理者を1人決める
対象物を扱う事業場には、化学物質管理者を選任する義務があります。これは事業場ごとに置く、化学物質の管理を担当する人です。
製造ではなく取り扱うだけの建設業の場合、専門資格は必須ではありません。衛生管理者や作業主任者など、現場の薬剤に詳しい人を社内から選べます。専任である必要はなく、現場をよく知る人が兼務する形でも始められます。
選任には期限と掲示の決まりがあります。選任が必要になった日から14日以内に選び、その人の氏名を事業場の見やすい場所に掲示します(厚生労働省)。役割を1人に集めておくと、SDSの管理も保護具の判断も、その人を軸に回せるようになります。
実務3:皮膚を守る保護具を整える
3つ目は、手と眼を守る道具の見直しです。皮膚や眼に障害を起こすおそれのある化学物質(皮膚等障害化学物質)を扱う作業では、保護具の着用が義務づけられています。
ここで見落とされがちなのが、布の軍手です。軍手では、薬品がしみ通ってしまう場合があります。求められているのは、薬品がしみ通らない不浸透性の保護手袋や保護衣です(厚生労働省)。扱う製品に合った保護具を選び、その使い方を管理する担当者を決めることも求められます。
中小建設業が今から動く3つの実務
- SDSを集めて対象か確認——塗料・接着剤・防水材・洗浄剤のSDS(安全データシート)を集め、対象物質を含むか一覧にする
- 化学物質管理者を選任——現場に詳しい社員を1人選び、14日以内に決めて氏名を掲示する
- 不浸透性の保護具を整える——皮膚に障害を起こす薬品には軍手ではなく不浸透性の手袋・保護衣を用意し、使い方を管理する
※対象物質や要件は段階的に追加・改正されます。最新の要件は厚生労働省の公式資料で必ずご確認ください。
3つに共通するのは、いきなり完璧を目指さないことです。まずSDSを集め、担当を1人決め、手元の保護具を見直す。順番に動けば、現場を止めずに対応を積み上げられます。
23年現場にいた人間として言わせてもらうと
これは私の見立てですが、化学物質のリスクは「匂いに慣れる」ことで、少しずつ見えなくなっていくのではないでしょうか。
23年の臨床経験で培った視点では、ゆっくり進む不調ほど、本人は最後まで気づけません。手荒れも、頭の重さも、「いつものこと」として流されていきます。声に出るころには、すでに長く重なっていることが少なくありません。
だからこそ、本人の我慢に任せず、会社が仕組みとして薬品と保護具を管理することに意味があります。化学物質の管理は、罰則を避けるためだけの書類仕事ではなく、職人の手と体を10年先まで守る投資だと考えています。
もし1つだけ持ち帰るなら: 化学物質管理は「製造業の話」ではなく、塗料や接着剤を扱う建設業すべての話です。まずSDSを集めて自社が対象かを確かめ、化学物質管理者を1人決めるところから動くのが、中小建設業の社長の最短ルートです。
よくある質問
Q. うちは塗装・防水だけです。化学物質管理者は本当に必要ですか?
A. 製造業に限った話ではありません。リスクアセスメント対象物(リスクの評価が義務づけられた化学物質)を扱う事業場であれば、業種や規模にかかわらず化学物質管理者の選任が必要です。塗料・接着剤・防水材・洗浄剤などに対象物質が含まれている場合、塗装・防水・内装の現場も対象になります。まずは使っている製品のSDS(安全データシート)で確認するのが出発点です。
Q. 化学物質管理者には資格が要りますか?誰が務めればよいですか?
A. 化学物質を製造する事業場では、専門的講習の修了者から選ぶ必要があります。一方、製造ではなく取り扱うだけの事業場では、衛生管理者や作業主任者など、化学物質に詳しい人を社内から選任できます。専任である必要はなく、現場をよく知る人が兼務する形でも始められます。
Q. いつまでに、何をすればよいですか?
A. 新しい化学物質規制は2024年4月1日に全面施行されています。化学物質管理者は、選任が必要になった日から14日以内に選び、氏名を事業場の見やすい場所に掲示することが求められます。まだ手をつけていない場合は、今からでも自社が対象かの確認と選任を急ぐのが現実的です。
Q. 保護具は、今までの軍手ではだめなのですか?
A. 皮膚や眼に障害を起こすおそれのある化学物質(皮膚等障害化学物質)を扱う作業では、薬品がしみ通らない不浸透性の保護手袋や保護衣などの着用が義務づけられています。布の軍手では薬品が浸透してしまう場合があります。扱う製品に合った保護具を選び、使い方を管理する担当者を決めることが求められます。
Q. うちの会社で、何から始めればいいですか?
A. まず、現場で使っている塗料・接着剤・洗浄剤などのSDS(安全データシート)を集めるのが出発点です。SDSを見れば、その製品が規制の対象物質を含むかどうかが分かります。社内だけで判断が難しい場合は、地域の産業保健総合支援センターに無料で相談できます。
最後に — 中小建設業の社長へ
化学物質の新ルールは、専門用語が多く、身構えてしまうテーマです。けれど本質は、「現場で働く人の手と体を、薬品からどう守るか」を会社として言葉にする作業です。SDSを集める過程で、自社が何を使ってきたかが、社長にとって初めて見える形になります。
DIALOGは、作業療法士23年の臨床経験で培った「人が働き続けられる条件を見抜く目」を持っています。そこに化学物質管理と産業保健の制度理解を重ね、SDSの棚卸しから化学物質管理者の選任・保護具の見直しまでを一貫して伴走します。書類の代行ではなく、現場が自走できる仕組みづくりが私たちの提供価値です。
まずは、倉庫にある製品のSDSを1枚集めるところから動いてみてください。そこから先のステップは、私たちと一緒に詰めていきましょう。